お昼に毎日来るおばあちゃまのことを前回、書いた。うちの店の献立替えは、基本的に月に一回しかないから、一月間、同じものを毎日食べ続けることになる。おばちゃまが店に来だしてから1年間ぐらいは、やはり同じものを出していた。
しかし、お客さんであるとはいえ、毎日顔を見ていると、やはりお互い人間だから情がわく。情がわけば、他人のように感じないから、だんだんとおばあちゃまが食べたいものを聞き出して、お出しするようになった。そうでないときも、おばあちゃまが好きなものを選んで出すようになった。店を始めて22年目になるけれど、お昼にたった一人のお客さんのためにメニューにない料理を作る、なんていうことは、初めてのことである。
それだけではない。朝、仕入れに行って、天然の車えびとか、ボタン海老とか、みる貝とか、おばあちゃまが好きなものを見つけたら、原価のことを考えずに買ってくるようになった。いつも3品ぐらいお料理をお出しして、3000円ぐらいいただくのだが、ボタン海老1尾で仕入値段が1000円を越すときもある。普通なら、これだけで3000円ぐらいの値をつけないと店をやっていけない。しかし、お刺身は、今だったらそれ以外に本マグロ、ひらめ、あおりいかをつけるから、大盤振る舞いもいいとこなのであるが、「お椀(または小鍋)」と「天ぷら(または煮物)」と「デザート」もお出しするので、おばあちゃまからいただく料金よりも、おそらく材料の値段のほうが高いと思う。
しかし、ボクとしては、他人とは思えなくなっているおばあちゃまが、「今日も美味しかった」と満足してくれればいいのだから、儲かるどころか、損をしたって一向に気にならないのである。こんなお客さんは初めてじゃないかなぁー、と思う。
おばあちゃまは、インターネットはやらないし、グルメ雑誌も読まない。旨いか不味いかは、自分の舌だけで判断する。前は、いろんな店を片っ端から食べ歩いていたみたいだけど、最終的には、ボクの作る料理が一番自分に合うとわかってきて、毎日来るようになった。
世の中には、馴染みの店を作らずにいろんな店を片っ端から食べ歩いている人がいて、食べろぐなんかを見ていると、そのような人が結構いるようにも思える。
飲食店の利用の仕方としては、現在のおばあちゃまとまったく正反対である。飲食店はその日の気分で選択する人が多いと思うから、どちらがいいのか判断する類のものではないけれど、確実に言えることが一つだけはある。ひとつの店(個人店)に通いつめれば、絶対にトクをする、ということである。だから、やはり行きつけの店を二つや三つは持っていたほうがいい。それらの店を軸にして新しい店を開拓するのがいいのではないかと思う。そういえば、邱永漢さんも3回に1回はまだ行ったことのない店に行くとおっしゃっていたから、2回はなじみの店に行くのであろう。
たったこれだけのことがわからない人が、なんて多いことか・・・・・・・
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